エイブル・アート・アワード

2003年度支援先

 6回目を迎えた2003年度のエイブル・アート・アワードには、全国から制作支援31件、展覧会支援29件の合計60件と、過去最高の応募がありました。障害のある人たちの表現活動や、そのための場が確実に拡がっていることを実感します。
 支援を申し込まれる方々の活動の場や形態が、非常に多様になってきていることも今年の大きな特徴でした。制作支援の部の支援先は、養護学校、フリースクール、精神科の病院、演劇のグループ、視覚障害者の美術鑑賞グループと、従来の福祉施設や作業所などが中心だった支援先とは大きく変化ししました。これは選考委員が意図的に時代を反映させ、これまでにない支援先をあえて選んだのではなく、申請書類から感じられる現場の活動内容や、支援の必要性を強く感じたからです。
 世田谷美術館が開催した展覧会では、エイブル・アート・アワードの展覧会支援の部の入選者を中心に据えて構成され、アワードにとって記念すべき年となりました。しかし、企業などの支援がなければ継続できない事業でもあります。今後もさらに充実・発展してこのプログラムを続けて行きたいと思いますが、そのためには新たな支援者、支援企業が必要です。皆さまからのご支援や支援に関するアイデア、情報提供もお待ちしています。

 

 1制作支援の部 支援先

 2展覧会支援の部 入選者

 3選考評

 

<支援先>

1制作支援の部(応募数31件、支援数5件)

福井県立福井南養護学校中学部(福井県福井市)

福井南養護学校では、生徒一人ひとりの表現を大切にし、その子が納得いくまで制作できるようにと授業時間を延長したり、できるだけさまざまな画材や材料を用意したりと環境作りに力を注いでいる。

袋田病院造形教室(茨城県久慈郡)

病院内での活動ですが、治療やアセスメントとしての取り組みではなく、自己表現や存在証明としての自由な創作活動を目指している。 何かをつくること・表現することにより、メンバーが自らの価値を見いだすことを大切にしている。

表現クラブがやがや(東京都練馬区)

表現クラブがやがやは、障害のある人もない人も一緒に表現できる場。それぞれの参加者の興味のあることを大切にし、音やリズム、色や形、ダンスなど五感を刺激しながら、自分たちにしかできない表現を模索している。

フリースクール湘南ライナス学園(神奈川県藤沢市)

現在の学校教育の枠にははまりにくい学習障害児及びその周辺の軽度発達障害児に対して、音楽、造形など芸術的アプローチを通して、彼ら一人ひとりの個性を引き出す活動をしている。

ミュージアム・アクセス・ビュー(京都府京都市)

「ミュージアム・アクセス・ビュー」は視覚障害のある方々との美術鑑賞を行っている京都のグループ。その活動の中から、鑑賞だけではなく絵を描くことからも遠ざけられているという事実に気がつき、創作ワークショップにも取り組み始めた。

*エイブル・アート・アワードは、大成建設の寄付金により運営されています。

*制作支援の支援先には10月に10万円が振り込まれ、画材の購入に充てていただきます。直接制作に関わることであれば使途は自由。この資金をきっかけにさらに自由で豊かな表現活動が行われることを期待しています。

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展覧会支援の部(応募数29件、支援数1件)

藤橋 貴之[ふじはし たかし]さん(新明塾/京都府京都市)

まちかどや牧場の夕暮れなど日常の風景を題材にしているものが多いが、その色彩の豊かさや構図が素晴らしく、山の一本一本の木や屋根の瓦の一枚一枚に至るまですべてきれいにカラフルな色に塗り分けられている。

 展覧会の詳細はこちら。

*エイブル・アート・アワードの入選作品展は、大成建設株式会社、富士ゼロックス端数倶楽部、認定NPO法人PIJD基金、東京-東ベンチャークラブの支援により開催されます。

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 ●選考委員
 
 橋本 安弘(大成建設総務部社会交流センター)
 
 サイモン 順子(エイブル・アート・ジャパン理事)
 
 高橋 直裕(世田谷美術館学芸員)
 
 及川 則子(富士ゼロックス端数倶楽部)
 
 早川 祥子、前田 麻名(認定NPO法人PIJD基金 パイロットインターナショナル日本ディストリクト)
 

 選考評

■「制作支援の部」選考総評

サイモン 順子(アートカウンセラー)

 前回までは、殿方の中で一人身を縮めていたのですが、今回はなんと2対4という女性の多い華やいだ選考会でした。しかも制作支援は応募の数こそ昨年を少し下回りましたが、内容がともかく華やか!というか、今までの展開とは違う新たな動きに驚かされました。

 まず、驚きのNo.1は、養護学校からの応募でしょう。私自身、近年、養護学校の先生方とお話をする機会が多くなってきているのですが、今学校(全て)において美術や音楽の『授業』が軽んじられている現状に深い不安、いきどおりを感じている所だっただけに、「県立福井南養護学校」からの応募はその切実な声が感じられ、3重円で選びました。しかし、この問題はエイブル・アート・アワードによって解決されるべきものでなく、教育、いや社会問題として考えるべきものだと思いました。

 教育・社会問題という点では、「フリースクール湘南ライナス学園」への支援も、ADHD、学習障害、発達障害児に芸術の果たす役割の大きさを再び痛感させられました。

 意外性No.3は、演劇サークル「表現クラブがやがや」(ネーミングが面白い)について、個人的にも演劇は総合芸術だと思っているので、いつかやってみたいと思っていることを実現しているので大いにご活躍を!

 No.4の「ミュージアム・アクセス・ビュー」について、視覚に障害のある人たちとの作品鑑賞というこれまでの活動自体が素晴らしいのに、視覚障害者の作品制作(ワークショップ)へと展開を広げている点に驚きました。かつて、展覧会支援をさせていただいたまたも光島貴之氏をはじめとする皆さんの意欲に圧倒されました。そして、添付資料の明るい顔かおのスナップ写真に負けました。

 最後に、精神病院での造形活動をすすめている「袋田病院造形教室」が油彩の特性を見ぬかれたのは素晴らしい。

 いずれも今後のエイブル・アート・アワードの展開が面白くなりそうでもありますが、また同時にその意味の大きさを実感しました。

 

■「展覧会支援の部」選考総評

高橋 直裕(世田谷美術館学芸員)

 今年の展覧会支援の部には、29件ものご応募をいただきました。これは、1998年にエイブル・アート・アワードが開始されて以来最高の数です。しかも応募作品の質も高く、例年にも増して選考委員泣かせの年になりました。こうした優れた作品が数多く寄せられる一因には、このエイブル・アート・アワードの存在や趣旨がこれまで以上に広く周知されるようになってきた、ということがあるのではないかと思います。応募作品が多ければ多いほど選考も難渋を極めますが、それは同時に埋もれた才能が世に出る確立も高くなることを意味します。これからも、選考委員を悩ませるべく多数のご応募をいただけますようお願いいたします。

 今回の応募作品についてですが、例年のごとくグループ、団体でご応募された中に「これは!」と思う制作者が多くいらっしゃいました。昨年の選考総評でもグループでご応募されたことが不利に働いた例がありましたが、やはり個人でご応募されるのがよいのではないかと思います。今回支援が決定した新明塾の藤橋さんは、そういった事情で昨年惜しくも支援を受けられず、「翌年ぜひ単独でのご応募を」という呼び掛けに応じて再度ご応募された方です。選考の最終段階まで残った支援候補は何人かいらっしゃいましたが、その中で藤橋さんが幾分有利であったことは否めません。

 しかし、こうした諸般の事情はともかくとして、藤橋さんの作品が非常に魅力的であったことが支援決定の一番の理由でした。いずれにしても大変な激戦の末であったことも併せてご報告することで総評とさせていただきます。

 

■選考会総評

橋本 安弘(大成建設・社会交流センター)

 「制作支援の部」の応募が31件と昨年(40件)より減じた分、「展覧会支援の部」の応募が19件から29件へと大幅に増加して、応募総数は過去最高の60件。審査選考の苦労も昨年同様大変でしたが、ベテランのサイモンさん、高橋さんに、新たに加わっていただいた方々と合わせ6名で、何とか所期の選考が出来て、ホットしました。終わった後、帰りの電車で一緒になった、初経験の及川さんが思わず「疲れたわ」とおっしゃったのは、二度目の私でも実感でした。

 応募資料と写真等での審査になるので、選考ポイントをそれぞれ的確に持ってあたることが大切でした。特に、「制作支援の部」では各項目の記載事項からグループの分野、性格や必要度を読み取ることで、絞り込んで行かざるを得ません。第1次に残った10件余から5件にする際、甲乙付け難いケースがありましたが、やはり応募者の思い・努力が資料から立ち上ってくることが最終の判断になりました。それに比べると、「展覧会支援の部」は件数こそ多くなりましたが、グループ応募は印象が散るのは避けられず、比較的すんなりと7件から最終2件に絞られ、昨年グループ応募で惜しかった藤崎さんに決定しました。彼の絵の持つ迫力と楽しさが12月に銀座の画廊で披露されるのは、審査に携わった一人として大変嬉しく思います。

及川 則子(富士ゼロックス端数倶楽部)

 制作支援の部はたくさんの応募から選考するのは大変な作業であり責任も感じました。私の会社の端数倶楽部でも施設や団体への寄付選考は大きな仕事なのですが、書類だけでなくなるべく現場を訪ねていった寄付申請推薦者の生の声を重んじています。制作現場に足を運び現場を見たいと思いました。申請書の書き方や熱意も大切です。全国にいるエイブル・アート・ジャパンの会員や関係者の協力を得て、現場を見て決めるやり方もあると感じました。

 今回、養護学校、フリースクール、精神科の病院など、これまでと異なる支援先が多く選ばれましたが、これは単なる時代の影響ではありません。それぞれの書類から現場の熱意を感じることができたからであったことを強調しておきたいと思います。

 展覧会支援の部は送付されてきた写真等を見ながらの選考でしたが、私が実物を見たいと思ったのは、もみの木園創作課(鳥取県米子市)としてグループで応募された中のおひとり、足立さんの「竹の子」という作品でした。全体的にグループでの応募は、限られたスペースでの展示ということもあり、不利なのではないかと感じました。

 選考会では、盛岡杉生園(岩手県盛岡市)の高橋和彦さんの作品と、新明塾(京都市)の藤崎貴之さんの作品が最後まで残り接戦でした。高橋さんの資料は、作品数が膨大で逆に焦点が絞りづらかった感があります。これはすべての方に言えることですが、的確に魅力的に情報を伝えることの大切さも感じました。

 初めて審査に参加させて頂き、応募者のみなさんの熱意を感じることができました。ありがとうございました。

早川祥子、前田麻名(認定NPO法人PIJD基金)

 6 年目を迎える「エイブル・アート・アワード」に、今までは支援活動だけをさせていただいておりましたが、今回、初めて選考会に参加させていただきました。応募作品数も去年と比べると多くなり、カテゴリーはもとより内容も大変充実したものになっているとのこと、大変喜ばしいことで、かつ、ありがたいことだと感謝いたしました。また、制作支援の部31件中5件、展覧会の部29件中1点を選ぶことの難しさは言いがたく、初めてなだけにいろいろな意味で新鮮な驚きはかくせませんでした。

 それぞれ応募資料をもとに作品を選考するのですが、制作者の研ぎ澄まされた感性から生まれる作品は全ての人を支援して差し上げたいと思うほど見事なものでした。作品を制作する皆さんの純粋な心は色使いにも表れ、一つひとつの作品から発せられるオーラはまさしく“アートセラピー”そのもので、選考で疲れた私たちの心を癒してくれました。無論、作家の方々を支えるグループの人たちの暖かい活動も見逃すわけにいきません。そんな両面からの選考の難しさを痛感しました。

 彼らの制作意欲を高め、質と幅を広げられるように、支援金を有効に使っていただきたいのはもちろんのことですが、それ以上に、12月に開催される展覧会をより多くの人たちに見ていただけることを切に願っております。

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