視覚に障害のある人との言葉による美術鑑賞ハンドブック

百聞一見をしのぐ!?」

 

さまざまな鑑賞方法にトライしよう

 このハンドブックは、言葉による鑑賞に焦点をしぼって編集したが、その目的は、誰もが鑑賞の可能性を発見し、多様な選択肢の中から自分にあった鑑賞方法を見つけてほしいという思いでつくられている。

 ここではさまざまな鑑賞方法や、鑑賞を助けるツールを紹介する。使い分けたり、組み合わせたりすることで、自分にあった鑑賞方法を見つけてみよう。

その1作品にさわる

 視覚に障害のある人たちの鑑賞として一番多く取り組まれている方法が、立体作品にさわって鑑賞する「触察」という方法。さわって鑑賞することによって、大きさや形、質感、触感などを味わうことができる。野外彫刻などはいつでも誰でもさわれる作品として展示されている場合がほとんどだが、それ以外では、視覚に障害のある人に限ってさわれる作品を展示している場合もある。触察するときは作品を傷つけたり汚したりしないよう、美術館や博物館側の準備や配慮はもちろん、視覚に障害のある人たちも細心の注意を払って鑑賞していただきたい。

その2レプリカや模型にさわる

 作品そのものにはさわれないけれど、レプリカや模型にさわって鑑賞することも一つの手段である。レプリカや模型の場合は、実物大でなかったり、材質が違ったりと、作品そのものとは違う場合もあるが、気兼ねなく、形を立体的に楽しむことができる。

その3形や輪郭、イメージをさわる

―立体コピー・タッチプリント・点図

 形や輪郭をさわって伝える手段として、立体コピーやタッチプリント、点図などがある。これは立体作品に限らず、平面作品も表現することができる。

 

1 立体コピー

 立体コピーは、作品(平面作品や写真など)をカプセルペーパーという専用の紙に白黒コピーし、それを立体コピー機にかけると、その黒い部分が熱を帯びて発泡することで浮き出すもの。小さい点や細い線などは、さわってわかるほどには浮き出ないこともあり、作品の通りには作成できない場合もある。

 

2 タッチプリント

 タッチプリントとは、透明な特殊インクを使用した立体(盛り上げ)印刷のこと。透明のインクを使用するため、下に印刷される文字や図柄の上に直接点字を印刷することができ、レイアウトの制限を受けたり、印刷物のデザインに影響を与えない。点字に限らず、図形や絵柄を型どった盛り上げ印刷も可能で、見えない人と見える人が共有することができる印刷技術である。美術館の収蔵品カタログをタッチプリントで作成している美術館もある(「視覚障害者の美術館・博物館利用に関するアンケート調査」参照)。

 

3 点図

 点図は、点線や点のパターンによって表す図のこと。図の構成要素は基本的には点のみなので、立体コピーとは違い、実線を表現したい場合も、点線で表現することになる。点図の作成は、コンピュータソフト1)を用いると、コンピュータ上で図を作成でき、点字プリンタで点字用紙に打ち出すことができる。

 

4 レーズライター

 美術鑑賞にはほとんど取り入れられてはいないが、もう一つの方法としてレーズライターというものがある。レーズライターとは、弾力性に富む下敷きの上に敷いて、インクのないボールペンで図形や文字を描くと描いたところが浮き上がってくるビニール製の特殊な作図用紙である。盲学校では図形や文字をさわるときに使われる必須アイテム。その場で形など描きながら伝えることができ、またカタログの図版の上からなぞることもできるため、鑑賞ツールとして、またコミュニケーションツールの一つとして、非常に可能性はあると思う。

 

 いずれも作品の情報をそのまま再現するのではなく、特徴的な線や形を選んでデフォルメするなど、いかにさわってわかりやすくするかというコツやセンスが必要である。ある程度の経験や知識も必要となるので、最初から質を求めるのではなく、実際に視覚に障害のある人と一緒に作成していくことが大切。

その4作品と同じ素材や、作品のイメージを

誘発するモノをさわる

 作品にふれなくても、レプリカがなくても、作品に使われているものと同じ素材にさわったり、作品が発するイメージから連想したモノをさわって鑑賞することも有効である。想像力を働かせることで一気に作品の本質に迫れることも。本物以上に想像力をかきたてられる場合だってあるかもしれない。大事なことは、心のスイッチをオンにする、そんな仕掛けなのだ。

その5文字情報を伝える

―点訳・音訳・拡大文字・テキストデータ

 視覚に障害のある人たちに、タイトルや作家や解説文などの文字情報を伝える方法として、点訳、音訳や拡大文字という方法がある。

 点訳とは、文字情報を視覚に障害のある人が読めるように点字に訳すこと。点訳の仕方は、最近はパソコン点訳が主流になっていて、コンピュータ用点訳ソフトを使えば、簡単に点字の文書を作成することができる。点訳ソフトはWEB上からフリーソフトウェア2)でダウンロードすることができるが、出力には点字プリンタが必要となる。ただし、点字の識字率は1割程度と低い現状もある。

 また、点訳のほかに音声で読み上げて伝える音訳という方法もある。音訳はテープなどに録音をして情報を届けるので、点字を読めない人でも情報を得ることができる。

 弱視の人の中には、大きな文字なら読めるという人も多くいるので拡大文字の文書を作成する。ゴシックの書体を使い、ポイント数をあげて大きな文字で出力したり、拡大コピーをするなど、簡単につくれる。拡大文字は、視覚に障害のある人に限らず、お年寄りなどにも大変役に立つ。また、障害の度合に合わせて自由に読めるように、手に持って読めるような配慮も大事である。

 そのほか、パソコンを利用してテキストデータを提供することも一つの方法。必要な文字情報をインターネットやメールを利用して流したり、フロッピーなどにデータを保存して渡すなどの方法もある。

 

1)点図作成ソフトで有名なものに「EDEL(エーデル)」というフリーソフトがある。

2)点訳ソフトで有名なものに「うぃんぴー」「お点ちゃん」「T.エディタ」などがある。

 参考になる書籍

ジュリア・カセム著
『光の中へ―視覚障害者の美術館・博物館アクセス』
(小学館/1998)

 学芸員やガイドボランティア向けに、ガイドの方法、作品解釈の方法、どのような教材・プログラムを開発すればよいかを、日本ではじめて具体的に紹介した本。

 主な内容は、「ミュージアムで視覚障害を持つ鑑賞者を案内する」「タッチ展の成り立ちと、イギリスや日本での取り組みの歴史」「全く見えないとき、部分的には見えるとき」「作品の解釈をする」「彫刻と工芸品を扱う」「絵画と平面作品を扱う」「触って見る展示作品の保護」「触知と音声で理解するための教材づくり」。

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