視覚に障害のある人とのことばによる美術鑑賞会議 
報告書

 

はじめに

 

 2008年9月21日の昼過ぎ、全国から41人の人たちが神戸市内にある富士ゼロックスの研修所に集まってきました。エイブル・アート・ジャパンが呼びかけた「視覚に障害のある人とのことばによる美術鑑賞会議」の主旨に賛同した参加者の方々です。視覚に障害のある人と言葉で美術鑑賞をしている三つの市民グループ、この鑑賞に可能性を感じたり興味を持っている美術館の学芸員や大学などの研究者、そして会議を支えるボランティアの人たち。研修所に泊まり込んで、寝ても覚めても「視覚に障害のある人とのことばによる美術鑑賞」について議論する2泊3日の合宿会議がスタートしました。

 この報告書は3日間22時間におよぶ会議の記録です。

 視覚に障害のある人と言葉で美術鑑賞するというと、視覚障害のあるなしにかかわらず、多くの人が想像できないという反応を示します。また、言葉での鑑賞以前に、視覚障害のある人にとって美術や美術館は無縁だと考えている人が多いのも事実です。そうしたなか、私たちは1999年の展覧会『このアートで元気になる エイブル・アート’99』の関連企画として実施したワークショップをきっかけに、翌2000年には視覚に障害のある人とない人がともに言葉で美術を鑑賞する市民グループが立ち上がり、以後10年にわたって言葉による鑑賞活動を続けてきました。この10年の間に、全国各地で鑑賞ワークショップを開催したり、同じようなグループが活動を開始しネットワークも生まれました。純粋に楽しいというのが活動の原動力ですが、誰かと一緒に観ることで、これまで一人で見ていたときには見えなかったものが観えたり、思いもよらないほど作品の本質に近づくことができたり、また、深いコミュニケーションが結べた瞬間を感じたりと、さまざまな経験を重ねてきました。しかし、これらの経験はその場に立ち会った人だけの感覚であり、多くの人と共有できていませんし、その魅力や可能性に正面から向き合った研究や報告もこれまでほとんど存在しませんでした。

 そこで、この鑑賞に感心を寄せる人たちに一堂に集まっていただき、徹底的に言語化をしてみたいと考えたのです。個々の経験知を持ち寄り、議論し尽くすこと、そこにさまざまな分野の専門家が加わることでより深い考察を加えることができるのではないかと思ったのです。そしてこのことは、見える見えないにかかわらず、すべての鑑賞者にとって、そして美術や美術館にとって、さらには社会にとって大きな財産となるのではないかと考え、この会議を企画しました。

 3日間の長時間におよぶ会議をもってしても、結論らしきものや一定の方向性が示されたり、合意を得たわけではありませんでした。ここには可能性の断片があるにすぎないかもしれません。しかし、これほどまでに時間を費やし、言葉を尽くしたことの意義は大きいと感じています。この議論を出発点として、研究者にとって、また実践者にとって、さらには、まだこの鑑賞を経験していない人たちにとっても何らかのメッセージや素材の提供を行うことができたとしたら、この会議の主催者として大きな幸せです。

 最後になりましたが、この会議に無償で参加して、長時間の議論を重ね、さらに報告書の編集作業にまで根気強くおつきあいくださった皆さんと、会議をサポートしてくださった皆さん、編集スタッフの皆さん、そして、資金、人材、スペースの提供にとどまらず、会議の企画から実施、報告書や報告会の開催まですべてにわたって我がこととして一緒に取り組んでくださった富士ゼロックス端数倶楽部の皆さん、ご協賛いただいた富士ゼロックス株式会社様に心よりお礼を申し上げます。

2009年3月

エイブル・アート・ジャパン

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