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6.探るように観る
M北村:美術館は当然、公共施設として視覚障害者にも開かれていなければならないので、宇都宮美術館には建設時から振動する杖で展示ルートを誘導するシステム*が設置されています。しかし、職員か周りの人に誘導してもらった方が早いと言われ、実際には使われていない。また、視覚障害者からの要請もあり、意識の高い学芸員が一部の絵画の立体コピーや点字解説をつくっていますが、実際の利用は、年間5組程度です。
それで、「開かれた美術館にしていくためには、触察や誘導システムだけでは十分でない」と思ったとき、私はMARと出会いました。しかし、この鑑賞のワークショップをしたら、視覚障害者には非常に評判が悪かった。「言葉での鑑賞って何?!」と。
そこで今は、言葉による鑑賞と触察とのミックスでワークショップをやっています。言葉と触察の順序はいろいろです。うまくいっているかはまだわかりません。
美術館でのワークショップや昨日のデモを見て私が思うのは、「晴眼者の方が見えない人を必要としている」ということです。晴眼者は恋するようにこの鑑賞に参加している。また、触察と言葉による鑑賞は少し次元が違うと思います。

G1石田:触察についてですが、絵画療法では参加する精神疾患の人に対して描く道具を考慮します。5Hと5Bの鉛筆では描いたときの感触はまったく違います。ボールペンもクレヨンも、紙に描くときの触覚がそれぞれ違い、タッチも違うので、描き手は視覚と一緒に触覚を探る過程を経ながら一枚の作品をつくる。つまり、つくり手も、触覚を楽しみ苦しみつくっているので、絵の鑑賞者にも、そこを知りたいし探りたい、見るだけでなく触ってみたいという欲求が生まれるのだと思います。
G3白鳥*:触察で感情や記憶が呼び起こされることも慣れで、全盲に限らず経験が多い方が言葉にできると思います。「盲人だから触るだけでいい」という一般的なイメージには流れてほしくない。ただ、視覚障害者の多くは触ると安心すると思う。僕の場合、美術鑑賞では一緒に鑑賞する人のひじを触ることでその思いを達成している。僕にはひじに触る実感が大切で、「彫刻に触れてよかった」という満足感に近いと思います。
G3ホシノ:僕も、白鳥さんに触られて心地よいと感じる。赤ちゃんがお乳をつかむように、自然に触れる感じに近い。人とのダイレクトな交換で、言葉のやりとりに通じると思う。
G3大内:現代人は忘れているけれど、触覚は根源的な感覚なので、取り戻したいと思います。
R塩瀬:生態心理学者のギブソン*は「触れるように見る」と言っています。触覚と味覚は、対象との距離がゼロになることで、触れるとは、ただ手をつけるだけでなく、動かして探ることです。
僕たちは、目で見てわかった気になっているが、それでは対象と近づけていない。本当にわかるためには「探るように見る」ことが大事だということです。
言葉による鑑賞では、その「探るように観る」ことをしている。言葉のやりとりで探ること、言葉にすることでちゃんと観ることをしています。
また、触る鑑賞も、探るようにしなければ観えてこない。そう考えると「手で触る」も「言葉で観る」も、同じ方向へ向かっていると思います。
R井尻:これまでの発言で「対象に近づきたい」「横の人とも近づきたい」という話が出ていますが、「近づく」にも物理的な距離とそうでない意味があると思うのですが。
R塩瀬:一緒に見ていても、観えたものが違えば、人と「近づけた」とは思わないので、物理的な距離とは別に「一緒に観えた感」というのがあると思います。それは、見える人見えない人でも違うと思うので、その辺を知りたい。
R日野:ビューの鑑賞ツアーで『フンデルトヴァッサー』展*へ行き、塩瀬さんがガラスケースの中の建築模型について話していたとき、だんだん私も建築の空間に入り込み、見えない人と共有しているような感じになりました。
ところが、あるとき突然、塩瀬さんはその建築模型がどのようなガラスケースに収められているのかという展示の説明をされたので、私の気持ちも同時にケースの外に出てしまいました。
見えない人にとって、こうした状況説明は支援の意味合いで必要かもしれませんが、作品(表現)そのものと私たちの距離は離れます。反対に、表現内容について語り合っているとき、私たちは作品に接近しています。
このような作品との距離感は、ともに鑑賞し、場を共有している人同士の距離感にも比例するように感じました。
M森山:友人が手相を見てくれたとき、なぜかそれが心地よかった。それは、多分私に向き合って私の話を聞いてくれた心地よさ、安心感なのかなと思いました。その感じと一緒に観ることがつながるような気がします。
人と一緒に観ること自体、まだまだ美術館では受け入れられていません。「一緒に観る」という観方があることを伝え誘うには、どうすればいいのかなと日頃考えているところです。
ここまで。下記より補足情報
*振動する杖で展示ルートを誘導するシステム
美術館のエントランスから受付までの間、白杖が床の仕組みに反応して振動し、あるポイントを通過するときは音声も加わって、トイレの場所などを案内する視覚障害者支援システム。
*生態心理学者のギブソン
ゲシュタルト心理学の影響を受けながら、生態学的知覚理論を提案したアメリカの知覚心理学者(1904-1979)。知覚が個人の中だけで起こるのではなく、環境が大きな役割を果たすことをアフォーダンスという概念で示した。
*『フンデルトヴァッサー』展
『人と自然:ある芸術家の理想と挑戦 フンデルトヴァッサー展』は、2006年4月11日〜5月21日まで京都国立近代美術館、6月10日〜10月29日までメルシャン軽井沢美術館で開催。当展では、フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー(1928-2000)が生涯にわたり思想・表現の根幹として追究した自然と人のかかわりをテーマに、初期のドローイング、水彩画からミクストメディア、タペストリー、木版画、オブジェ、建築模型に至る、技法の枠を越えた膨大な作品を展開。ミュージアム・アクセス・ビューは、2006年5月7日、京都国立近代美術館で同展の鑑賞ツアーを行った(見えない人、見えにくい人9名・見える人22名)。
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