「視覚に障害のある人と言葉で美術鑑賞をする」というと、とても難しいことのように思われるかもしれません。でも、実は、ちょっとだけ発想をかえれば意外とかんたんに鑑賞ができるかも。作品を通して会話を楽しみ、そこから生まれるコミュニケーションを何よりも大切にするMARの鑑賞。はたで聞いていると、かたや、深淵なる哲学を語りあっているグループもあれば、作品がきっかけとなって故郷の話に花が咲いているグループもあったりして。一緒に見る楽しさを満喫すべく、お互いにいろいろ試行錯誤をしながら、鑑賞が進んでいきます。ここでは、言葉による鑑賞をしてみたいあなたに、ミュージアム・アクセス・グループ MARの経験からヒントを差し上げます。
さあ肩の力を抜いて新しい鑑賞にチャレンジしてみてください。
*初対面の3人。1人は視覚に障害があり、あとの2人は見える人。3人1組でこれから展覧会を回ろうとしている。そんな場面を想像してみてください。
|
1 意外性を楽しもう!
見える人は、ガイドやボランティアを「する人」で、見えない人は「してもらう人」といったイメージをまずは捨てましょう。お互いに作品を楽しむ鑑賞者同士。対等な関係なのです。
見えない人と一緒に見てみると、意外や意外、見えていると思っていた自分が、実は見えていなかったことに気づきます。また、一緒に見ることにより、お互いにたくさんの発見をしたり、変化が起きてきます。関係性を固定しないで、その場で起こるいろいろなことに素直に対応していきましょう。
|
2 お互いのことをよく知ろう!
鑑賞をはじめるにあたって、お互いに自己紹介をしましょう! 初めて会う人同士、名前だけではなく、生まれ故郷や仕事のこと、趣味や好きな食べ物・音楽など、一見鑑賞とは関係ないようなことを話してみるのは案外大事なこと。自分のことを知ってもらい、相手のことも知ることは、作品を一緒に見ていくための第一歩。
|
3 その場で相談・確認
手引きの方法、見たい作品のジャンルや作家・知りたい情報、鑑賞時間、休憩のタイミング...。お互いに率直に自分の状況や希望を語り、その場で確認をしながら行動に移しましょう。
手引きの必要がある場合、まず最初に手引きの仕方を確認。また、身体にふれる必要がある場合には、その都度、了解をとってから行動しましょう。
最初にだいたいの広さや出展作品数を伝え、どのような作品を見たいのか、何点ぐらい見たいのか、特に見たい作品、鑑賞を終えたい時間などについて希望を述べ、目安になる時間を決めておきましょう。一般的には1時間半〜2時間程度がベストのようですが、あくまでもお互いに相談して柔軟に。
|
4 時にはオーバーリアクションも
見える人は伝えることに一生懸命になりすぎて、気持ちに余裕がなくなり、自分自身が楽しむことを忘れがち。自分が楽しんでいないことは、すぐに伝わってしまいます。好きな作品や気になったことを、一緒に味わい楽しむことを意識して話をしてみるとよいのでは。
ちょっと大げさに驚いてみたり、感動を素直に表してみたり......。少々オーバーかなと思うくらいの表現をしてみると、相手もだんだん話に引き込まれ、会話が盛り上がるかも。
|
5 いろいろなイメージで自由に着色
一口に「赤」といっても、りんごの赤・夕日の赤・唇の赤・炎の赤などなどいろいろな赤があります。例えるものによってそれぞれが与えるイメージも違い、受ける側の感じも違ってきます。また、同じ色の表現をしても、それを聞いた人それぞれ、そこからイメージするものが違います。そんな違いやズレには、驚きや発見があって楽しいもの。会話の糸口にもなります。まずは、自分が思う色のイメージをいろいろなものに例えて伝えてみましょう。
また、色から受ける感覚、例えば、やわらかい・熱い・甘い感じなども伝えてみたり、懐かしい童謡や美しい旋律のクラシック、時には激しいハードロックなど、色からイメージするリズムや音楽に例えてみるのもおもしろいでしょう。一つの色から広がるイメージの世界を楽しみながら、お互いに会話に着色してみましょう。
|
6 「わからない」もOK 沈黙も金!?
よくわからない作品、うまく言葉で表現できない作品に出会ったときに思わず絶句したり、正直に「何が描かれているのかよくわかりません」と伝えてもよいのです。そこから「なぜわからないのか」「何に言葉を失ったのか」を元に会話が弾むことだってあるでしょう。無理に解説しようとしたり、がむしゃらに言葉を尽くして伝えようとすると、相手が余計に混乱してしまうかもしれません。沈黙もまた表現なり、のスピリットで、素直に感情表現しましょう。
|
7 聞き上手になろう
思ったこと、感じたことを言葉で表現することはとても難しいものです。ましてそれを人に伝えるためには、かなりのエネルギーがいります。すべてを的確に言葉で伝えようと頑張りすぎないこと。また、相手の好きなこと、得意なこと、趣味などを話題に盛り込むのも効果的でしょう。同じ言葉でも受け取り方や感じ方はさまざまです。いろいろな表現を試しながら、お互いの間に共通の言葉を見つけてみてください。
|
8 いろいろな表現方法を試してみましょう
見える人は「作品を伝えなくては」「私が話さなくては」と思いこみがち。そのため、一方的な作品解説に終始してしまい「一緒に鑑賞すること」にならなくなってしまいます。相手にちゃんと伝わったのかどうかわからず不安を残したまま終わってしまうこともあります。自分だけが話すのではなく、相手の話に耳を傾け、相手の気持ちや感情をうまく引き出すことを忘れずに。ちゃんと聞くことができれば、相手にあった言葉を返すことができ、会話も弾むようになるはず。大切なのは「一緒にいる」「一緒にみている」ということです。
|
9 休むことも、ふりかえることも
疲れてしまうとせっかくの鑑賞に気持ちが入りません。会話にいきづまったり、ちょっと疲れてきたなと思ったら、迷わず休憩をいれましょう。また、予定通りに最後まで鑑賞することにこだわらなくてもOK。途中で鑑賞をやめてもいいのです。
時間があったら、お茶をしながら、今日見たものをふりかえったり、感想を言いあってみたり、雑談をしてみたり。そのような会話を通じて、より印象が深くなる作品がでてきたり、新たな発見があったり、次回の鑑賞のヒントになることもみつかるかもしれません。そのような時間が実は鑑賞には大切なのです。
|
10 ふたりでみてはじめてわかること
何をおいても最も大切なのは、「私とあなたが一緒に鑑賞している」ということ。鑑賞とは、ただ目で見ることではありません。他の誰でもない、私とあなたが一緒に作品を見て、感じて、味わい、楽しむということ。それはお互いにコミュニケーションを通わせること。人と人、人と作品、人と空間、感性と感性の一期一会の出会いを楽しみましょう。
|