先天性疾患による視力・視野・色の識別の不自由さは子どものころからあったのですが、絵やイラストを見るのは好きなほうでした。といっても、美術館に出かけてまで見るところまではなかなかいきません。絵は実際に生で見てみたいけれど、美術館というところに足が向かなかったのです。絵にはスポットライトがあたっているけれど通路は暗く、通路に椅子などが置いてあり、段差、階段はつきもので。何より、混雑していて作品や説明文がよく見えない。音声ガイドを借りても、作品ナンバーすらわからない。そう考えると、同行者がいないとなかなか行きづらいところだったのです。
いわさきちひろさんや星野富弘さんの画集や絵本を見るのが以前から好きでした。10年ぐらい前、友人に連れられ群馬の富弘美術館へ行く機会に恵まれました。平日ということもあり来館者は少なく、館内には外光が入りとても明るく、淡い色調の作品を友人のサポートを得ながらゆっくりと堪能することができました。描かれている色合い、やさしい草花の様子、心温まる詩歌。実際の作品がどれほど鮮やかにわたしの目にうつったかということよりも、大好きな彼の作品をすぐ近くで感じることができたということに、とても満足感を得たのです。と同時に、このようにゆっくりと時間をとることができれば、また、サポートをしてくれる同行者がいれば、わたしでも作品を楽しむことができるのだととても嬉しく感じました。
東京都美術館の障害者特別鑑賞会には、鑑真和上展(2001年3月)から参加させていただいています。最初は晴眼の友人にガイドを頼み、館内の様子(通路や段差等)を確認しつつゆっくりと拝見しました。日本史や仏教に特に詳しいわけではありませんが、1000年以上昔の人たちの息遣いを肌で感じることのできる興味深い企画展でした。とても人気があり平日はなかなかゆっくりと鑑賞することができないと後で知り、せっかくの貴重な機会を少しでも多くの皆さんと共有したいと考え、友人に呼びかけました。
その後、聖徳太子展(2001年12月)あたりから友人数名で連れ立って参加するようになりました。ともに手を携え作品の説明を読みあい、作品の全体像を見るため近づいたり遠のいたり、自分の目にうつった絵のイメージを言葉にし伝えあう、そんなにぎやかな鑑賞をしています。できるだけ声の音量は控えめにしているのですが、きっとまわりの方からすると迷惑極まりない集団かもしれませんね。
この特別鑑賞会では、ガイドの方が作品の説明、背景、絵のイメージ等を丁寧に説明してくださいます。また、大きな展示物のレプリカなどを実際に触らせていただく機会も何度もいただきました。特に印象的だったのは、ヴェルサイユ展(2003年2月)です。「華やか」という一言につきる展示物の数々はもとより、実際のヴェルサイユ宮殿を模したという壁や床を触らせていただくことができたのには感動しました。宝塚歌劇や漫画などで名前だけは知っていたヴェルサイユ宮殿に実際に行ったような心地になり、今でもその感触、感動は忘れることができません。
視覚に障害があるといっても、その症状も生活歴もさまざまです。工夫次第で、美術鑑賞の可能性もどんどん広がっていくと思います。わたしの目の状態も、今後どのように進行していくかはわかりませんが、そのときに応じ、今後も自分なりに美術作品を楽しむ方法を探していけたらと思っています。また、このような機会を少しでも多くの方に利用していただき、視覚障害者が気軽に外出するきっかけとなればいいなと思っています。
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