エイブル・アート・ジャパンでは、1997年に社会福祉・医療事業団(現、独立行政法人福祉医療機構)の助成を受けて「アクセシブル・ミュージアム―文化施設のバリアフリー化に関する調査研究」というプロジェクトを実施しました。障害のある人をはじめ、誰にとってもアクセシブルな(使いやすく親しみやすい)文化施設を市民と共に考えようという取り組みでした。
それと同じ時期から、障害のある人たちの鑑賞のあり方についてもさまざまな取り組みをはじめました。なかでも、美術や美術館からもっとも遠い存在にあると思われてきた、視覚に障害のある人との美術鑑賞について、鑑賞グループをつくり、継続的に活動を続けてきました。その取り組みの中で生まれたのが、視覚に障害のある人とない人とが「言葉を通して作品を見る」という新しい鑑賞スタイルの提案でした。
これまで「視覚に障害のある人は美術鑑賞できない」「さわらなければわからない」といったイメージが一般的でしたが、言葉で美術を鑑賞することを通して、見える人、見えない人の双方にとって多くの発見がありました。一緒に作品を見ることで、ボランティアする・されるという一方的な関係ではないこと、作品を深く見ることの意味、あるいは見ていても見えていなかったという根源的な気づきがあったのです。見えるとは何か、見えないとはどういうことか、鑑賞とは何か、さらにはコミュニケーションとは何かを考える機会を得たのです。
このように視覚に障害のある人との美術鑑賞を考えることは、少数の人の限られた問題ではなく、美術の本質や、美術館・博物館の新しいあり方や、新しい活用の仕方にも迫る大きなテーマが含まれていたのです。
そこで、今年度ふたたび、独立行政法人福祉医療機構(長寿社会福祉基金)の助成を受け、「視覚障害者の文化アクセスとソーシャル・インクルージョン促進事業」として、このテーマに向き合うことにしました。全国の美術館・博物館に、視覚障害のある人の利用に関してアンケート調査をしたり、全国6都市で言葉による鑑賞ワークショップを実施するなかから、視覚に障害のある人との鑑賞についてあらためて深く考える機会を得ました。本事業の実施やハンドブックの発行などにあたって、福祉医療機構をはじめ、多くの方々に多大なるご協力をいただきました。ここにお礼を申し上げます。
このハンドブックは、視覚に障害のある人との言葉による美術鑑賞の可能性についてまとめたものですが、このことは、鑑賞のあり方やコミュニケーションに新しい回路を開く多くのヒントが含まれていると考えています。視覚に障害のあるなしにかかわらず、鑑賞の方法が多様になり、さまざまな見方を自ら選べるようになることを、さらには、私たちの生き方がより深く美しくなることを願っています。
2005年3月
エイブル・アート・ジャパン
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