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海外の事例の中からここでは、隣国韓国に目を向けて、視覚に障害のある人と美術に関するさまざまな取り組みを行っている「韓国視覚障害者芸術協会」をレポートする。
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 ギャラリーTOMに触発されて
「韓国視覚障害者芸術協会」は、アーティストのオム・ジョンスンさん（同協会副会長）が、東京にある「ギャラリーTOM」を訪れたことがきっかけとなって1997年に設立された。オムさんは、「ギャラリーTOM」で行われていたワークショップに感銘を受け、韓国でも視覚障害者の美術教育を実践したいと考えた。
同協会では、現在、視覚障害者が芸術的な才能を発揮できるよう、美術教育の場を提供したり、展覧会の開催、一般向けの啓発活動などへ活動を広げている。協会のメンバーは、アーティストを中心に、美術史家や美術館のキュレーター、教育の専門家、社会学者など、多様な人びとによって構成されている。
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美術ワークショップ
韓国では、視覚障害児には絵も描けないし造形もできないとのイメージが定着している。これまで、美術的な作品を制作する機会が与えられてこなかったためで、協会では、まず、視覚障害児がアーティストと一緒に作品制作に取り組むことができる「美術ワークショップ」を進めている。ワークショップに参加した子どもたちは、自分自身の経験や体験や感情からわいてくるものを表現する技術やスキルを身につけている。そこではクリエイティブでユニークな作品が生まれている。
また、協会は、視覚障害児の鑑賞教育にも取り組んでいる。国立民俗博物館内の子ども博物館では、さわって鑑賞する企画を実施した。視覚障害児の鑑賞について、最初は、関係者の間でさえ、どのように取り組んでよいか戸惑いがあった。しかし、実際には、博物館のスタッフに新たな発見をもたらした。その結果、視覚障害児は博物館の新たな顧客と位置づけられ、視覚障害児向けに、点字や立体加工が施され、さわって感じるパンフレットの発行にもつながっていった。
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展覧会
「Another Way
of Seeing―もう一つの見方」
協会は、美術ワークショップを通じて、子どもたちが制作した優れた作品を社会に知らせていきたいと考えるようになった。展覧会「Another
Way of
Seeing―もう一つの見方」は、1998年11月にソウルの琴山（Keumsan）ギャラリーでの開催を皮切りに、これまでに４回開催されている。
韓国ではこれまで、障害のある人の作品を展示する展覧会は、ほとんどなかった。そうしたなか、協会では、慈善事業としてではなく、アーティストの作品を展示するという姿勢を貫いている。2001年の展覧会は、梨花（Ewha）女子大学博物館の招待展として展覧会が開催され、視覚障害児たちの芸術的な才能が広く知られる機会となった。
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点字触覚アートブック（視覚障害児向けの絵本）の出版
美術ワークショップをはじめてから7年が経ち、協会関係者たちは、視覚障害児に絵本を提供する必要があると感じるようになった。
指先で読むことができる絵本を通じて、子どもたちは、図書の楽しみや想像することの喜びを体験することができる。また、点字の習得や生活に必要な触覚の発達に効果があるからだ。絵本は、点字と墨字が一緒に表記されているため、見える子どもたちにとっても刺激的な五感体験の本になっている。この絵本は、2004年に開催されたソウル国際ブックフェアに出品され、高い評価を受けた。そして、この点字触覚アートブックは、盲学校や点字図書館に寄贈されている。
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研究事業―美術教育プログラムの開発
さらに新しい取り組みが生まれている。美術ワークショップやこれまでの経験を踏まえ、視覚障害者向けの持続的な美術教育プログラムの開発にも取り組んでいる。
この研究事業では、「視覚と障害」「感覚と障害」「ソーシャル・インクルージョンと障害」などのテーマについて議論を進めている。博物館の美術館教育チームとも連携し、視覚障害者の鑑賞プログラムの研究・開発もしている。
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ヴィジョンとこれからの課題
協会では、「視覚に障害があることは感性や感覚の欠陥を招くのではなく、異なった感覚と知覚を提供するもの」という考えに基づき活動を進めている。美術ワークショップでは、多様な感覚や表現を発展させるようにしている。協会は、このような取り組みが、視覚に障害のある子どもたちが世界に向けて発信していくことを可能にし、また、見える人が見えない人の多様な世界や表現にふれることにより、「健常者と障害者」という既成概念をこわすことにつながると考えている。
これまでの活動を振り返って、オムさんは、「子どもたちは、自分自身を表現する方法を学び、自信をつける機会にもなった。アーティストたちにとっても、この世界にはもう一つの見方があることを学ぶ機会にもなった」と言う。また、「“目の見えない人の視覚的な想像”というパラドックスが、目の見える人の想像力を広げ、創造的な見方や考え方、生き方などにつながる」と話している。
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