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【報告レポート】「アートとソーシャルデザイン」研究会(全4回)
【報告レポート】「アートとソーシャルデザイン」研究会(全4回)

ここでは、「アートとソーシャルデザイン」研究会の報告レポートを掲載していきます。
エイブル・アート・ジャパンのインターンの平島が担当しますのでぜひご覧ください。

報告者:平島朝子
現在、都内の大学院で教育社会学/社会学を専攻しています。目下修論執筆中。1970年代のたんぽぽ運動について、社会運動論や障害学の立場から研究しています。

<研究会概要>
「アートとソーシャルデザイン」研究会
テーマは、参加のデザイン。
日本各地で起きている「障害×アート」の先駆的でユニークな取り組みを紹介し、
ソーシャルデザインのための新しいヒントをみつける情報交流の場です。

2016年3月に開催したフォーラムの後、より丁寧に活動の立ち上がり、活動の方法、
活動の意義、活動を通じた社会の変化を確認したいとご要望をうけてきました。
そこで2017年度は、プログラムごとにじっくりと話をする場を設けることとしました。

主催:NPO法人エイブル・アート・ジャパン
協力:一般財団法人たんぽぽの家
助成:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)

各回の概要については、こちらからどうぞ!
第1回 知的障害のある人から学ぶ −インクルーシブリサーチの試み−
 →<報告レポート>
第2回 地域と福祉作業所のつなげ方 −世田谷区、渋谷区の取り組みを通じて−
 →<報告レポート>
第3回 カルチュラルツーリズムの可能性 −視覚障害者のタッチツアープログラムから夢の自動車運転まで−
 →<報告レポート>
第4回 手話は伝達手段をこえる?! ―美術と手話プロジェクトの試み―
 →<報告レポート>
番外編 「アート×障害」見本市
 →<報告レポート>

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<報告レポート>
番外編 「アート×障害」見本市

 7月から8月にかけて全4回にわたって開催しました「アートとソーシャルデザイン」研究会。9月18日(月・祝)に、番外編として、障害とアートをめぐる様々な活動の「見本市」を実施いたしました!「表現活動支援」「鑑賞支援」「仕事づくり支援」のキーワードで、官民にまたがる24の団体が集まり、それぞれがブースを出展しながら、順番にスピーチを行いました。


<スピーチに耳を傾ける人々>     <ブースにはたくさんの資料>
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 見本市を企画するに当たって、代表の柴崎は「障害とアートをめぐる動きはたくさんあるけれど、それぞれが繋がることができる場がなかった。」と申しておりました。
今回のような見本市は、これまで同じ関心を持ちながらも互いを知ることなく活動してきた各団体が出会い、考え方を分かち合ったり、視野を広げたりすることのできる新鮮な機会だったのではないでしょうか。
出展された方々からは、新たなネットワークを築いたり、有意義な情報交換をすることができたと言っていただきました。
また、スピーチを5時間通して聴いておられた方がこのようにおっしゃっていました。
「普段は自分たちのフィールドからしかモノゴトをみていないけれど、こうして違う角度や分野から活動をみると、発見があり、また未来の様子がみえてきた。」

 見本市で生まれた新しい繋がりが議論や協働をうみ、障害とアートをめぐる未来がさらに豊かになっていく、そんなきっかけとなっていましたら幸いです。
また鑑賞支援に取り組んでおられる出展者の方からは、見本市そのもののアクセシビリティをどう向上することができるかを具体的に教えてくださり、大変参考になりました!

また当日は、200名近くの方がお立ち寄りくださいました。
アートが好きな方、行政関係で働かれている方、福祉関係のお仕事をされている方、ビジネスに携わっておられる方、大学の先生や研究者の方、遠くからいらしてくださった学生さんなど、実に様々な方がいらっしゃいました!
偶然通りかかった方も立ち寄ってくださり、これまで障害とアートについて関わりのなかった方達にも関心を寄せていただけたように思います。
芸術の秋が訪れましたが、ポコラートや横浜パラトリエンナーレ、日本財団によるDiversity in the arts Museum of Togetherなど大きなイベントが目白押しです。
沢山の人々と障害とアートを楽しみ、考えて行くことが出来ればと思います。
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 ところで、なぜ障害とアートについて考えるのだろうか、と思うことはありませんか。
例えば、絵が趣味の障害者の方で、障害と芸術や文化をすぐに結びつけられてしまうことを苦しく思っている人がいます。
障害のある人による、あるいは、障害のある人とともにする芸術文化活動は常に、「障害」という修飾語をつけられてしまうのだとしたら、それはおかしいのではないかと私も思います。
一方で、障害を芸術文化活動のエネルギー源だという人もいますし、障害のある人ならではの独自の視点があるのだという障害文化論という立場もあります。

このように障害と芸術や文化についていろんな見方がありますが、障害とアートについて考えることの意味は、こうした議論に身をもってまきこまれていき、深めていくということにあり、また、障害のある人が芸術文化活動から締め出されてきた歴史や今も続く現実を打ち破って行くという意味があるのではないでしょうか。
「障害×アート」—活力溢れる激動のテーマだと感じます。
数年後、10年後、20年後がとても楽しみです。

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<報告レポート>
第4回 手話は伝達手段をこえる?! 「美術と手話プロジェクト」の試み

 「アートとソーシャルデザイン研究会」最終回は、4名もの話題提供者とともに賑やかに迎えることができました。
「美術と手話プロジェクト」より、代表の西岡克浩さん、市川節子さん、和田みささん、そして東京都庭園美術館より八巻香澄さんが来てくださいました!

「美術と手話プロジェクト」とは?

 みなさんは、耳が聞こえない人/聞こえにくい人は、美術館でどのようなバリアを感じていると思いますか?
なかなか想像がつきにくいのではないでしょうか。
西岡さんが参加したユニバーサルミュージアムで、ある学芸員の方が呟いたそうです。
「目の見えない人、車椅子を使う人、外国の方の案内はできるけど、耳の聞こえない人にはどう接すればいいのかわからない。」
 耳が聞こえない人/聞こえにくい人が美術館を楽しむために必要な工夫について知られていないことを実感した西岡さんは、なんとかしなくてはと立ち上がりました。
耳が聞こえない人だけで考えても仕方がないし、美術館の関係者だけで考えてもよくわからないので、全員が一緒に考えるような場として「美術と手話プロジェクト」が始動しました。


<4名の話題提供者。右から二番目が代表の西岡さん>
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 市川さんがプロジェクトの始まりたての頃のお話をしてくださいました。
耳が聞こえない人と美術館へ行く日に、あらかじめ考えられる工夫はしていたが、思いもかけない課題が見つかったというお話です。
事前に考えていたのは、「美術館で作品の解説を聞くとき、皆は手話通訳を見ているから、解説が終わった後にゆっくり鑑賞の時間を取る必要があるだろう」ということでした。
実際にやって見ると、こんなことがわかりました。
それは、学芸員の方が「説明しているときに皆が手話通訳を見ているので、不安になる。」と感じられたことでした。
そして、学芸員さんが手話通訳さんにだけ体を向けて解説をしてしまうということもあったそうです。
耳が聞こえない人が楽しめるということは、ただ手話通訳がいればいいということではないのです。
耳が聞こえない人だけでなく、あらゆる立場の人全員で共に考えていくことで初めて、全ての人に開かれた美術館になっていくのだということがよくわかるお話でした。

東京都庭園美術館
 4名の話題提供者のうちの1人、八巻さんが学芸員をされている東京都庭園美術館、皆さんは行ったことがありますでしょうか。
1933年に建てられた歴史ある建築を使った美術館で、元々は家だった建物なので、窓や扉があったり、鏡があったりと、独特の空間を楽しむことができます。
八巻さんはここで「ようこそあなたの美術館へ」という名前のラーニングプログラムをコーディネートされています。
館内にあるウェルカムルームでは、皆がアットホームな気持ちで対話できる場所であるようにとの思いを込めて様々な工夫がなされています。
そのうちの1つが、「さわる小さな庭園美術館」です。


<「さわる小さな庭園美術館」を体験する来館者>
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 手触りなどにも細やかな工夫がなされているそうです。是非体験しに行って、「わたしの美術館」を感じたい!と思いました。

八巻さんは、ガラス工芸家のエミール・ガレの展示を企画しているときに「美術と手話プロジェクト」に出会いました。
手話について知るにつれて、そのクリエイティブさ、表現の豊かさに興味を惹かれるようになり、ワークショップ「もしもガレがガラス職人に手話で指示を出したとしたら」(2016年1月23日実施)を「美術と手話プロジェクト」との協働で企画することになったのでした。

「もしもガレがガラス職人に手話で指示を出したとしたら」
 ワークショップでは、以下の文章を手話で表してみました。

①「ヒナゲシはマルケットリーでつけなさい。カトレアはアプリカッションでつけなさい。」
②「蜻蛉の影をアンテルカレールで、体をアプリカッションでつけなさい」

マルケットリー、アプリカッション、アンテルカレールがガラス職人の使う専門用語で、手法を指す言葉です。
ガラスやフランス語に詳しい人でなければ意味はわかりませんし、もちろんそれを表す手話表現もありません。
参加者の中には、耳の聞こえる人、聞こえない人、聞こえにくい人がいました。
まず、全員で作品を鑑賞した後、手法についての解説を聞き、手話での表現を創ります。
手話を創るときに大切なのは、なんとなく理解するのではなく、実際にその手法を用いている姿を想像できることです。
耳の聞こえない人から、「そのとき、ガラスをつけた棒は回していますか?」などディテールに関する質問が重ねられ、手だけでなく表情も駆使して、ようやく手話になっていきました。

イメージと共にある手話
 手話とは具体的なイメージととともにあるような言語なのだ、と話題提供者の皆さまが度々おっしゃっていました。
手話通訳の和田さんは、「手話で話すときと、口で話すときと、全然頭の違うところを使うんだよ」と教えてくださいました。
私はイメージとともに語るということがなかなか想いうかばなかったので、もっと手話で話す感覚を知りたい、想像がつきません、と訊ねましたところ、「私たちは違う物の見方をしているから完全に想像ができないのは当たり前だし、だからこそ一緒に考えることが必要なのだ」ということを西岡さんと来場者のMさんから丁寧にお答えいただきました。

参加のデザイン
 今回特に印象的だったのは、「手話とは何か」を考えることを通じて、耳が聞こえる、聞こえないという違い——「違うこと」がポジティブに語られていたことです。
聴者にとって手話は異文化であり、「もしもガレがガラス職人に手話で指示を出したとしたら」では、手話や手話らしい発想に触れた聴者の物の見方や感じ方が豊かになっていく様子が伝わってきました。
今の社会では、平均的であること、違わないことが良いこととされています。
しかし「美術と手話プロジェクト」、そして東京都庭園美術館という空間では、異なる世界が広がっていました。
そこでは「違うこと」を通して皆が心豊かに楽しむ時間が流れていました。
「違うこと」を楽しむこと。これもまた、「参加のデザイン」の1つの答えなのではないでしょうか。

一方、耳の聞こえない/聞こえにくい方の感想には「展示室で、学芸員の解説とともにじっくり鑑賞できたことが嬉しかった」という声が多かったそうです。
今はまだ美術館における情報保障が十分ではないことが再確認されました。
八巻さんは「情報保障がきちんとあった上で、情報保障にとどまらない企画をしていきたい」と述べられ、来場者の方も含めて美術館関係者の方は、情報保障のあるプログラムを継続して行くことの重要性を指摘されていました。
西岡さんは、聞こえない人/聞こえにくい人の気持ちとして、「簡単な手話でも1つあれば、また美術館に来ようと思える」と話されました。
私は西岡さんに「よろしくお願いします」を教えていただきましたが、簡単な手話を誰しもが知っているようになったら、美術館も、そのほかの場所も、より参加しやすくなるだろうなあ!と思いました。

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<報告レポート>
第3回 カルチュラルツーリズムの可能性−視覚障害者のタッチツアープログラムから夢の自動車運転まで−

 今年度の「アートとソーシャルデザイン研究会」もいよいよ後半へ突入いたしました!
第3回目はKNT-CTホールディングス(近畿日本ツーリスト・クラブツーリズム)より、渕山知弘さんがお話しにいらしてくださいました。
アートの話なのに、旅行会社の方…?と思われるかもしれませんが、旅は、人生を豊かにする、広い意味での芸術文化の1つと考えることができます。
高齢の方や障害のある方が旅行を諦めなくて良いようにとサービスを開発してきた「ユニバーサルツーリズム」の第一人者・渕山さんのお話は、とても興味深いものでした。
今回は、車椅子での旅行、目が見えない/見えにくい方の旅行の2つについて主にお話していただきました。

高齢者のバリアフリーから全ての人のバリアフリーへ

 一番初めに、車椅子での旅行のプログラムをご紹介していただきました。
車椅子を利用されている方の中でも、ご高齢で足腰が疲れてしまい車椅子を用いている方を対象としたツアーです。
障害者は対象じゃないの?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
高齢者を対象として車椅子での旅行のサービスを開発してきたのには理由があります。
というのも、渕山さんのご経験から、「障害があっても旅行が楽しめるようにバリアを取り除いていこう」と提案すると、障害はあまりに多種多様なために「何から始めればいいんだ…?」状態になってしまい、具体的な変化が生まれにくくなってしまう一方、高齢者については、バリアを無くしていく方策が分かりやすく、アクションに繋がっていくのだそうです。
そこで、まずは高齢者向けのサービスを開発して、全ての人へのバリアフリーに向けた下地を築いていこうということにしているそうです。

 トークではたくさんの写真を見せていただきました。
ハワイの海を楽しむ姿、マチュ=ピチュ遺跡を臨んでいるところ、エアーズロックの麓でシャンパンを飲んでいる写真などを見ているうちに、「車椅子でどこまで行けるのだろう?」と思っていたのが、「車椅子に乗っていてもどこにでも行ける!」と思うようになりました。
後に質疑応答で「透析をしている人はどうするんですか」との質問に対し、設備が整っている行き先をすぐにお答えになられた渕山さんですが、「できない理由を探すより、できる理由を探す方が楽しい!」とおっしゃっていました。
調べたり工夫したり交渉したりを重ねてきた渕山さんの口から出ると、とても重みのある言葉として響きます。

 とても印象に残った写真の1つが、こちらです。

<お寺の階段を登るおじいさんと周りの人たち>
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 四国遍路の旅行を企画した時、参加された方が、「あの階段を登りたい!」と回をかさねるごとにリハビリをがんばったそうです。
旅行って、ただ楽しいだけでなく、心に活力をもたらすのだなあと思いました。
 他にも、震災の6ヶ月後に、旅行と支援を兼ねて福島へ行ったこと、それから具体的にどのようなサポート体制を敷いたかなどのお話をしてくださいました。
字数の関係で割愛させていただきますが、とても興味深かったです。

視覚障害者、空を翔ぶ
 高齢者向けの旅行プログラムに加え、目の見えない/見えにくい人向けのプログラムもご紹介いただきました。
触って楽しむ企画が多く、何を触るかというと博物館の展示のレプリカだったり、ウミガメだったり、普段は決して触ることのできない忠烈祠の兵隊さんだったりします!
美術館や博物館で触って楽しむプログラムは少しずつ増えてきていますが、予めそうした工夫をしていないところでも、渕山さんが相談したり、それまでの実績を紹介してどうすればできるのかを説明し、楽しめる範囲が広げられていきます。


<兵隊さんをみんなで触っています。事前に連絡、説明をして特別に触らせていただいているそうです!>
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 視覚障害者向けプログラムは、触って楽しむだけではありません。
なんと、自動車を運転したり空を飛んだりすることができます。
実現のきっかけは、お遍路ツアー参加者の言葉でした。
「渕山さん、一生に一度でいいから自分で車を運転してみたい」と言われた渕山さん、試行錯誤の末にツインリンクもてぎの協力をえて自動車運転ツアーが実現に至り、毎回満席となる人気プログラムとなっています。


<後ろに盲導犬が乗っています。滅多にない光景ですね!会場からは和んだ笑いが漏れました。>
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 自動車運転ツアーが実現してからしばらく、参加者から「運転できたから、今度は空を飛びたい」との声があがり、ハワイでセスナ機を操縦する企画が実現しました。
空を翔ぶだなんてさぞかし実現が難しかっただろうなあと思い込んでいた私ですが、「車よりずっと簡単」に実現したとのことで、びっくりしました。

気になるお値段
 質疑応答でよく訊かれたのが、やはり気になるお値段です。
事業として成り立っているのか?成り立っているなら、旅費は高額なのではないか?など。
ズバッと言うと、旅費は、歩ける人や目の見える人の旅行の大体1.5倍ほどでした。
これを読まれている方になぞなぞですが、なぜ若干高めになると思いますか?
答えは、主な理由としては他のプログラムより少人数で実施しているからだそうです。
言い換えると、バリアを取り除くための工夫にお金がかかっているのではない、ということです。
私は、バリアを取り除くのはきっと難しくて、お金がかかるんだろうなと思い込んでいた口なので、意外でした!

さて、確かに他の旅行より高めに設定されているお値段ではありますが、参加者の声を聞くと、参加まえには「高い」と感じ、参加された後には「安い!」とおっしゃることもあるそうです。
渕山さんはこんな例をあげられました。
「今、2000万円で宇宙旅行の権利が買えるがまだ実現していない。これまで目の見えない人、見えにくい人にとって、自動車の運転はお金を払っても実現できる場は今までなく、宇宙旅行と同じくらいの価値。」
なるほど、そう言われれば高くないのだな、と思う一方で、渕山さんは、今後の課題として、価格を下げていくことを挙げられていました。
全ての人が、旅行の楽しみを通して人生を豊かにすることができる社会は、実現可能なところにまで来ている!とワクワクした時間でした。

終わりに
 トークを聴きながら、何度も「え、できちゃうんだ!」と驚かされ、ひるがえって、何でもかんでも「できないだろう」としていた自分に気づかされました。
大反省です。
バリアは、こうした思い込みで作り上げられている面が大きいのではないでしょうか。
渕山さんが「心のバリアフリーが不可欠」とおっしゃっていましたが、心のバリアフリーをして、できない理由を作り上げるのではなく、どうすればできるか?を考え、やってみることが大切だと思いました。
そうして、全ての人が旅行を楽しめるようになってほしいです。

 また、前回に引き続き、ビジネスの論理が前提とされたお話でしたが、障害のある人や高齢者にとってのバリアを壊す時に、福祉の枠組みからはみ出してもいいんだという当たり前のことに気づかされました。
渕山さんがバリアを乗り越えようとするとき、福祉を参照するのではなく、顧客のニーズに応えるため場面場面に臨機応変なご対応をされていたことが印象的でした。
福祉から飛び出ること、それはまさに、研究会のテーマである「参加のデザイン」の可能性の1つではないでしょうか。

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<報告レポート>
第2回 地域と福祉作業所のつなげ方 −世田谷区、渋谷区の取り組みを通じて−

 「第1回目から3週間後、8月5日に行われた第2回も盛況のうちに行うことができました!
「参加のデザイン」を共通のテーマとしたこの研究会ですが、第2回は「地域と福祉作業所のつなげ方 −世田谷区、渋谷区の取り組みを通じて−」と題して、磯村歩さん(株式会社グラディエ代表取締役、 桑沢デザイン研究所非常勤講師、公益信託世田谷まちづくリファンド運営委員)に話題提供者としていらしていただきました。

磯村歩さんってどんな人?
 磯村さんはデザイナーとして、プロダクトの開発だけでなくよりよい社会のあり方を提案されている方です。
代表取締役をされている株式会社グラディエのホームページにはつぎのようにあります。

多様性は、発想の起点であり可能性です。一見、ネガティブなことにこそイノベーションの種を感じます。
社名のグラディエはグラデーションの意を持つ「グラディエント(英語)」からとった造語ですが、多様な人々が混じり合う境界にこそ、しなやかで美しい社会に向けた可能性がある。
私たちは、柔軟に領域を超えながら、ありたい社会を提案していきます。
(株式会社グラディエHPより 閲覧日2017/8/17)

このような考え方のもと、福祉作業所と地域、大学、アーティストなど多様な人々を繋げて来られたのですが、そもそも「障害」と出会ったのは、昔ある企業で働かれていた時でした。
そこで、「障害のある人にとって使いやすい」プロダクトをデザインする仕事があり、障害のある人の暮らしについて発見していくうちに、障害が実はネガティブなものではないと考えるようになったそうです。
例えば、手話を使って話す人達は水中でもコミュニケーションを不自由なくとることができる、というようなことが挙げられます。
そうした発見は、「障害のある人にとって使いやすい」という見方は、健常者からの一方通行なまなざしであるという気付きにつながっていきました。
また、あるときたまたま福祉作業所の製品を目にした際、「これは買いたいとは思わないなあ。買いたいと思ってもらえる商品を売らないと、障害のある人が一方的な支援の対象になってしまうのではないか」と感じられたそうです。
 磯村さんは、障害には今までの社会が思いつかなかった可能性があるのに、障害=配慮や支援の対象、と一方的に決めてしまう社会のあり方や、障害者と健常者の一方通行な関係への問題意識を胸に、今日に繋がる取り組みを始められたのでした。

取り組みの一例―フタコラボ―
 こうした取り組みの例としてフタコラボが紹介されていました。

 <壁に映るスライドの右下をよーく見ると…きれいなお菓子が置いてあります!磯村さんがお土産で下さったフタコラボの商品です。皆でとてもおいしくいただきました!>

 磯村さんが福祉作業所と協働する際に、2つの目標がありました。
1つは、工賃アップ。もう1つは、障害者と健常者との心のバリアをとること。これらの目標を達成するために、プロダクトの開発において様々な工夫がなされました。
 たとえば、ギフトやお菓子という商品の設定。ギフトは自分が気に入ってなければ贈れないから、同情心で買うようなことはありませんし、皆でお菓子を食べる中で情報は伝播していきます。
それから、汎用資材を組み合わせること、インクジェット印刷機で出力可能なカードを添付すること、少量生産であることを活かしてカスタマイズやオーダーに応えていくこと、地産地消ニーズにこたえて地域と連携していくこと・・・
大学院生の私にとってはめまぐるしく、専門的なところまで理解できなかったのですが、来場者のなかで福祉関係の仕事をされている方などはとくに刺激的に思われた様子で、後半のディスカッションでは具体的な質問がたくさん出ておりました。
 フタコラボの成果としては、1つ目の工賃アップについては一人につき毎月1600円の向上、2つ目の心のバリアについては、3万人以上の人に商品が届き、製造に400人以上が関わったことがあげられました。

福祉作業所との関係
 磯村さんのお話のなかで特に印象的だったのは、福祉作業所と、そして施設利用者とどのような関係でありたいか、ということです。
あるとき、福祉作業所から「無理だ、出来ない」と言われてしまったことがあるそうです。
そうしたやり取りがあって、「発注・受注だけの一方通行の関係ではなく、互いに高めあっていけるような関係を大切にしよう」と再確認されたとのことでした。
研究会終了後、実際に福祉作業所で働かれている方が次のような感想を述べられていました。

健常者も障害者も働く喜びを求めて、知人に始まり地域も巻き込んで共創していく。
これらの話しを聞いて、働く視点が変わりました。「やらされているではなくて、希望に向けてコツコツ自分にできる事をやる。」

 社会にメッセージを発信するという事は、開発された商品だけではなく、開発されるまでのプロセスも含めてデザインしていくことであり、その中で関わる人々自身が変化していくことなのだなと勉強になりました。
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終わりに
 普段、ビジネスに疎い大学院生の身ですので、専門的なことへの理解が及ばないレポートになってしまいました・・・
が、福祉の可能性についてわくわくする時間であったことが伝わっていれば嬉しいです!
 福祉とビジネスの関係はデリケートな部分もあるかと思います。売れる、売れないで生き残りが決まるという市場の論理が福祉を囲ってしまうとすれば、それは人間の命を生産性で測ろうとしないという考え方を福祉が実践できなくなってしまうからです。
しかし、今回磯村さんから紹介していただいたのは、ビジネスによる福祉の囲い込みではありませんでした。
新たな社会を提案するために、福祉作業所や施設利用者をはじめとする多様な人々の立場に立つことを重視していたからです。
人ありきで魅力的なビジネスが実現していることに、新たな社会の可能性を感じました。(平島朝子)

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<報告レポート>
第1回 知的障害のある人から学ぶ −インクルーシブリサーチの試み−

 「参加のデザイン」をテーマとした、全4回の「アートとソーシャルデザイン研究会」。
去る7月15日に第1回を開催することができました。
第一回目は、「障害のある人から学ぶ インクルーシブリサーチの試み」と題して、森口弘美さん(たんぽぽの家/京都府立大学実習助教)、そしてインクルーシブリサーチに積極的に参加されてきた中西正繁さんにお話していただきました。

インクルーシブリサーチとは何か
 インクルーシブリサーチとは、障害のあるなしに関わらず皆の声を取り入れた社会を実現するための方法の一つです。
とくに、法律や制度を考える時に、政府の関係者や企業、大学の力ある人だけではなく、もっと色んな人の声を取り入れていくことが大切です。
障害のある人を調査の対象者としてみるだけではなく、調査のプロセスから障害のある人も共にやっていくべきだというのが、インクルーシブリサーチの考え方です。

研究会の内容
 研究会ではまず、インクルーシブリサーチの取り組みである「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」のDVDを視聴しました。
これは、たんぽぽの家のすぐそばにある六条山カフェができる前に、どんなカフェにすれば多くの人にとって良い場所となるのかを調査したプロジェクトです。
地元の大学生、大学院生、障害のある人たち、たんぽぽの家のスタッフなどが調査者として参加しました。
このプロジェクトの報告会では川上文雄先生が「常識をうちやぶれ」とおっしゃっていましたが、まさに、「常識をうちやぶる」ことこそが、多様な人々の参加を目指すインクルーシブリサーチの可能性の1つではないでしょうか。

 <森口さんと中西さん>        <DVDを観ました>
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 研究会の後半では、中西さんへの質問タイムが設けられました。
会場には、美術館、福祉系の企業、政府系機関で働かれている方や、アーティストの方、障害の当事者の方など多様な人々が集いました。
そういうわけで、中西さんへの質問も多方面に及び、止むことがありませんでした。
まさに、「障害のある人から学ぶ」時間となったのではないでしょうか。
森口さんへの質問タイムでは、インクルーシブリサーチについて鋭い質問が飛び交いました。
リサーチ・リテラシーに関する質問から、障害のある人の高等教育の現状まで、幅広い領域に渡りました。
森口さんは、「インクルーシブリサーチは万能ではない。あくまで、インクルージョンを目指す上での1つの方法に過ぎない。
参加していればよいのではなく、参加の質を考えるべきだ。」と述べられました。

 <後ろに、ワークの成果があります>  <活発な質問タイムでした>
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終わりに
 今の社会では、障害のある人の声をはじめ、多様な人々の声が聞かれ、受け止められているとは言い難いと思います。
また、一部の人が多くの人の声に耳を傾けるのではなく、多くの人がみんなで考えることが大事だと思います。
もしかしたら、多くの人がみんなで考える中で、異なる立場の人同士の無理解や葛藤に直面することがあるでしょう。
しかし、その無理解や葛藤に取り組むことで「常識をうちやぶる」成果が生まれるのではないでしょうか。

本報告を書いている私は、エイブル・アート・ジャパンでインターンをしている大学院生なのですが、調査や研究など、何かをじっくり考えるということは、「ああでもない」「こうでもない」「どうしても理解できない」などの葛藤に取り組むことだと思います。
そのようにして、見過ごされて来たことに気づいたり、新しい見方を知ったりするのだと思います。
インクルーシブリサーチ、そして皆で考えるということも同じだと思います。
粘り強く自分以外の人と向き合いながら、皆でともに生きることができるより良い社会に向けて具体的な発見をしていくこと。
まだまだ日本では始まったばかりのインクルーシブリサーチですが、これからどのような発見が生まれてくるのか期待です。(平島朝子)


近日中記載予定!
第4回 手話は伝達手段をこえる?! ―美術と手話プロジェクトの試み―